オーバークロックの方法
ところで私は「オーバークロック」という表現をしていますが、日本では「クロックアップ」の方が通りがいいようです。しかしこれはよくある和製英語というやつなので、一応正しい英語の「オーバークロック」という言葉を採用したいところです。しかし言い馴れた「クロックアップ」を多用すると思いますが許して下さい。
66MHz | 75MHz | 83MHz | 100MHz | 112MHz | 133MHz | |
3倍 | 200MHz | 225MHz | 250MHz | 300MHz | 336MHz | 400MHz |
3.5倍 | 233MHz | 262MHz | 291MHz | 350MHz | 392MHz | 465MHz |
4倍 | 266MHz | 300MHz | 333MHz | 400MHz | 448MHz | 532MHz |
4.5倍 | 300MHz | 337MHz | 375MHz | 450MHz | 550MHz | 600MHz |
縦軸に倍率、横軸にベースクロックを配置しています。標準ベースクロックの66MHzと100MHzの欄には見覚えのある周波数が殆どなのが分かるでしょう。基本的には動作周波数から倍率とベースクロックが分かると思います。たとえば400MHzなら100MHzの4倍だなとか266MHzは66MHzの4.5倍だなとかですね。もっとも300MHzのように100MHzの3倍と112MHzの4倍と133MHzの4.5倍という複数のパターンが考えられるものもありますが、この場合業界標準の100MHzの3倍であると思います。
このようにベースクロックと倍率があり、その掛け算でCPUの動作周波数が決まるので、いずれか又は双方を変更してオーバークロックしていくのだなということは、もうお分かりでしょう。ではそれぞれの方法のメリット、デメリットを探ってみましょう。
もしベースクロックを上げることができたらこれはなかなかいい方法です。と言うのは前述したようにこれは多くのパソコンの部品が動く基本クロックですから、これを上げればCPU以外の部品の性能も向上するからです。しかし巷でいわれるほど効果がある訳ではありません。実際ベースクロックを上げたことによって動作周波数が上昇する部品は限られており、更にパフォーマンスも向上する部品となると非常に限られているからです。ではいったいどの部品がどのくらいの効果で性能があがるのでしょうか。それを見る前にベースクロックを発生させるメカニズムと部品をみてみましょう。
まず基本クロックはオシレータという水晶発振子が14.318MHzという周波数を発振します。この周波数をうけてPLL(Phase Locked Loop)という部品(QPFのIC)が様々な周波数を作りだし、必要なところに供給します。ベースクロックというのもこのPLLが作り出す周波数の一つです。殆どのM/Bはベースクロックが可変ですが、PLLの作り出すすべての周波数が可変な訳ではありません。供給先には決して規定のもの以外の周波数を与えてはいけないものが結構あります。たとえばシステムクロックです。これは所謂時計ですから、その基準クロックを変えてしまったら、めちゃくちゃな時間をPCの時計が刻むことになります。またI/Oコントローラなども24MHzという決まったクロックでないと全く動作しないようです。ベースクロック以外は全て固定であると考えていいでしょう。ベースクロックはシステムバスクロックなどとも呼ばれますが、決してシステム全体のベースになっているわけではなく、多くの部品はベースクロックとは関係ないクロックで動作しています。
ベースクロックが可変であるといっても上記の6種類のうち通常は66MHzと100MHzだけで、それ以外をサポートしているマザーボードは決して多くはありません。しかし実際は隠しでサポートしている場合も多いようです。そのへんのことはWebのBBSが詳しいかもしれませんね。また改造もできます。基本的にはオシレータを変えればいいのですが、前述のようにこれを交換しただけではシステムクロックがめちゃくちゃになり、I/Oコントローラも動かなくなります。これらにはもとの周波数を与えなければならないので、どうしてもPLLにも手を入れる必要があり、このピン情報 が必要です。私のM/B(ASUSTekのP2L97)に搭載さていたPLLはICS社のものでしたが、同社のホームページ(http://www.icst.com/)にピン情報が公開されていました。このような情報が公開されていないとちょっと無理ですね。
改造に関してはこちらが非常によい報告をされているのでご覧ください。
ところでアップの対象となるベースクロックはすべてのパソコン部品に関係した周波数ではないと述べました。ではいったいこの周波数はどこに供給されるのでしょうか。実はこれが供給されるのはPCIバスとメモリバスとCPUバスの3個所だけです。結局ベースクロックのアップの効果が及ぶものはこの3つのバスに繋がった部品だけということになります。CPUバスは言うまでもなくCPUへの供給ですから、検証する必要はないでしょう。ただ単にベースクロックを上げればCPUのクロックも上がるという当たり前の話しです。ここではベースクロックはCPU以外にどのような部品に性能向上をもたらすかと言う検証ですから、前の2つを見ていきましょう。
ベースクロック
オシレータとPLL
単位秒 | MMX Pentuim | K6 |
83MHz X 2.5 (208MHz) | 141.95 | 129.99 |
75MHz X 3.0 (225MHz) | 139.13 | 127.78 |
66MHz X 3.5 (233MHz) | 143.30 | 131.60 |
一番CPU周波数の高い「66MHz X 3.5」が一番悪い結果になっています。さすがに「75MHz X 3.0」の方が「83MHz X 2.5」に優っていますが、CPU周波数差を考えると明らかにベースクロックの高いこと、つまりは2次キャッシュの速いことが有利であるかがわかります。
しかし賢明な方はもうお分かりかもしれませんが、2次キャッシュがベースクロックだけでなく、CPUの倍率アップとも同期して上昇できるPentium-IIやMendocinoの場合は、ベースクロックアップの倍率アップに対するアドバンテージは殆どないことになります。以下に上記のテストと同じものをPentium-IIについて行った結果を示します。
単位秒 | Pentuim-II |
83MHz X 3.5 (292MHz) | 95.18 |
75MHz X 4.0 (300MHz) | 93.62 |
66MHz X 4.5 (300MHz) | 93.95 |
CPU周波数がほぼそのまま反映されています。特に全く同じCPU周波数になる「75MHz X 4.0」と「66MHz X 4.5」が殆ど差がないのは、予想していたとはいえ驚きです。ベースクロックアップの効果はあくまで2次キャッシュだけであり、それ以外の部分には殆ど恩恵がないことを如実に示している結果であると考えます。
少なくともPentium-IIの場合はもし倍率アップが可能なら問題の少ないこちらを選択した方がいいでしょう。しかし後述するように倍率アップが不可能なCPUが大変多いので、その場合はベースクロックを上げるしか方法がありません。かくいう私もPentium-IIですが、倍率アップができないのでベースクロックアップに走った一人であります。
結論を申しますと、ベースクロックのアップのCPU以外の効果は2次キャッシュの向上だけであるが、Socket7の場合それでも十分に意味があり、CPUのアップしか望めない倍率アップよりも優先して行いたい、Slot1でも倍率アップがだめならやらざるを得ないということです。
やるなら問題点は解消なしければなりません。ではもう一度問題点を考えてみましょう。まずメインメモリはウェイトを増やすと効果はなくなりますが、少なくともそれだけで不具合の解消はできます。現在多くのM/Bがこうしたメモリアクセスの調整ができるようになっています。そもそも大した効果がないのですから、不具合が起こるようなら迷わずウェイトを増して解消しましょう。問題はPCIをどうするかです。
メーカー | 型番 | 回答数 |
---|---|---|
41MHzで動作可能なVGAカード | ||
Canopus | PowerWindow3DV/4MC | 1 |
Canopus | PowerWindow DX/4MC | 3 |
Canopus | PowerWindow968 | 2 |
Matrox | Millennium | 4 |
Matrox | Mystique | 1 |
#9 | Motion77 | 1 |
Cardex | ChallengerEV | 1 |
41MHzで動作可能な3Dカード | ||
IO-DATA | GA-PVR3D | 1 |
Canopus | Total-3D | 1 |
41MHzで動作可能なSCSIカード | ||
Tekram | DC-390 | 1 |
Tekram | DC-390F | 1 |
Tekram | DC-390U | 2 |
Tekram | DC-310U | 1 |
ASUSTek | SC-200 | 3 |
Century | CSAP-815AAF | 1 |
SCSIではAdaptecが挙がっていません。つまりPCI 40MHz以上では動かないということです。私のマシンの場合(AHA-2940Uで実験)、動作が不安定というレベルではなく、アクセスすると即ハングといった、使い物にならない状況でした。しかし前述したようにカード側のクロックアップで問題を回避することができます。改造もそれほど難しくないようです。またノーマルでも十分動作するという情報もあります。
IDE関連ですが、まず40MHz以上では動かないという情報と50MHzくらいでもOKという相反する情報があります。もっとも50MHzでもOKというのはUltra-ATAのHDDであり、それ以外はだめだという情報もあり、錯綜しています。実際私の経験なのですが、Quantum FB-STが37MHzでも不具合を起こしました。このHDDは当時Ultra-ATAでは定番中の定番です。私もさすがにガッカリしたのですが、IDEのケーブルを短いものにした(というよりもM/Bから見て近い方のソケットに差し替えた)ら不具合がおさまりました。本当にこれで修復できたのか、そもそもこれが原因だったのかは分かりませんが、同じような話をもう一件だけ聞いています。高周波数にするとケーブルなどのノイズの問題もばかにならないと思うので、不具合が起こるようなら試みる価値はあるかと思います。
実はこの後、41MHz(外部83MHz)でも行けました。少なくともこのFB-ST上にあるWindows95は正常に起動しました。いくつかのアプリも動き、実行できたベンチマークテストもあります。しかしHDBENCHのDirect Drawのテストでハングしてしまいました。もっともこの時CPUも375MHzになっていましたし、メモリ(当然PC100当然い対応していなかったもの)にも83MHzがいっていたのですから、一概にPCIのせいともいえないでしょう。結局上記のようにSCSIでは使い物にならなかったので、実験は中止。CPU倍率を下げて、CPUを安全に動かせる速度で外部83MHzを試してみるべきなのですが、今後トライしてみます。ただし前述のAHA-2940Uに関しては、外部83MHz X 4での実験ですから、純粋にPCIの問題であると思います。
上記の私の経験のようにPCI 37MHzでも不具合の起こる可能性というのは多分にあります。しかし40MHzよりは遥かに少ないと思いますし、解決方法も楽なものが多いです。 私もベースクロックアップはあくまで倍率アップの代わりなので、何も目くじらたてて危険な外部83MHzにする必要もないのため外部75MHzで行っています。
具体的な方法は通常マザーボードのジャンパやディップスイッチというもので変更します。これらの位置や設定方法などはマザーボードによるので、マニュアルを参考にして下さい。マニュアルがない場合でも大抵はM/Bにシルク印刷されているので、分かると思います。ただ一部のマザーボードはBIOSで変更できるのもの出てきているようです。
第1ピン | 第2ピン | 倍率 |
0 | 0 | 1.5倍 |
0 | 1 | 2.0倍 |
1 | 0 | 2.5倍 |
1 | 1 | 3.0倍 |
ですからいくらマザーボード側から第1ピンに情報を流しても、CPU側では第2ピンでしか判断していないので、2.5倍などにすることができないのです。たとえば2.5倍に設定したつもりが、1.5倍になってしまう訳です。中には全く訳の分からん倍率になってしまうものもあるようですが。これをよくリミッターがかかっているなんていいますね。回避する方法はわかりません。できたとしてもチップ内のことなので、相当困難であると思います。
倍率の設定も前述のようにマザーボードのジャンパやディップスイッチで設定するので、実際の方法はマザーボードのマニュアルをみるとか、実際のマザーボードを覗いて頂くしかありません。
動作上の問題点
さて、これまで解説してきたのは、周波数を上げるための努力でした。しかしこれはオーバークロックにとって入り口に入った程度です。さんざん指摘してきたように、この後本当にその周波数でCPUが動くのかという重要な命題が待っています。
もちろん多少のオーバーならその成功率が高いのがCPUの特徴であるとも述べてきました。多くの人が行っているオーバークロックは精々10%から15%程度だと思います。この程度ならかなりのCPUが追従できるようです。そしてその訳を説明してきたつもりです。しかし人間には欲があり、もっと上げてみたいと当然思うでしょう。私もそうです。その場合の問題点とは何なのでしょうか。
これに付いてはさらに紙面を改めましょう。こちらへどうそ。